豹変カレシのあまあまな暴走が止まりませんっ!


「俺が作る」
「でも、今日、当番私――」
「いい。俺が作るから」

懺悔のつもりだろうか。夕飯の調理当番を変わると言い出した。

忘れていいって言ったのに。
気にしてるなぁ……。


トントン、と規則正しい綺麗な音が響く。
スタイルの良い完璧なシルエットが、真剣に玉葱を刻んでいる。

一瞬だけこの身体は、私だけのものになった。
……なかったことになっちゃったけど。

良い経験が出来てラッキー! くらいに、すっぱり割り切るべきだよね。
しばらくは、この後ろ姿を見る度に、いろいろと思い出しちゃいそうだけど。

ジャッジャ、と何かを炒めたあと、どんぶりにそれを盛り付けて、玲が私の前へと持ってきた。

不意に真正面から見つめてしまって、くらくらした。

ああ、眩しい。後ろ姿だけじゃなくて、玲の表側も最高に美しい。
あの時の記憶がよぎっちゃう。汗ばんだ玲の真剣な眼差しとか、妖艶な舌捌きとか、うわああああ複雑だよう。

忘れなくちゃ。約束したんだから。記憶から抹消しなくっちゃ。
お願いだからこっち向かないでよ!

のたうち回る私に。

「何をしている。できたぞ」

玲が運んできてくれたのは、親子丼。
私の大好物の一つだ。最近はカロリーが高いからって、あんまり作ってくれなかったのだけれど。
ケロッと気分が一転、元気が出た。

「やったー! ご馳走じゃん、どうしたの?」
「まだあるから、もう少し待っていろ」

玲が、今度は何か別のものをフライパンで振るっている。
お鍋の中にも何かあるらしい。まろやかな良い香りがする。

やがて出てきたのは。

カルボナーラスパゲティと煮込みハンバーグ。
高カロリーな主食の群れ。
< 45 / 59 >

この作品をシェア

pagetop