もう一度だけでも逢えるなら
「くーちゃん、こっちに来ておくれ」

「うん」

「前に、この子のことを話したことを覚えていないかい?」

「ごめん、そのお話も忘れちゃった」

「この子はね、てんしなんだよ」

「てんしって、なに?」

「背中に羽の生えた神の使いさ。くーちゃんの背中には、羽は生えていないけどね」

「ああ、その天使ね」

「水樹さんも、天使なんだよ」

「え! 水樹さんは天使なの?」

「くーちゃんと引けを取らない、優秀な天使さ。紗優にはもったいないくらいの素敵な人だよ」

「そうなんだ。どうして私は、水樹さんの姿が見えるの?」

「紗優が私の孫だからさ。私の血を引いているからだよ」

「そっか。私の他にも、水樹さんの姿が見える人がいるの?」

「いるともさ。本当に純粋で素直な心を持つ者だけが、天使の姿が見えるんだよ。まあ、見えたところで、天使だとは気づかないだろうけどね」

「へー、そうなんだ。お母さんも、水樹さんの姿が見えるの?」

「見えるかもしれないね。ただ、娘はこの町にはいないし、天使のお世話になるような悪いことはしないだろうからね」

「天使のお世話になるような悪いことって?」

「紗優は、一万円札をネコババしようとしたろ?」

「うん」

「真っ当な人間は、天使のお世話になる確率が低いのさ。紗優は、善人という善人ではない。一万円札をネコババしようとしたくらいだからね」

「確かに、私は善人ではないと思う。自分でもそう思う」
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