すきなひと
「毎日ご苦労様〜」
私の返答に、割とどうでも良さげに巴は言う。そんな巴に私はクスリと笑ってみせた。
「じゃ、良いお年を」
「ばいばーい」
巴と挨拶をかわし、私はいつもの場所へと向かう。
A棟1階から渡り廊下を進み、B棟の3階へ。『美術室』というプレートがかかった部屋を……通り過ぎ。その隣の『美術準備室』の前に立った。
ドアを開けると、その床には案の定。紙、絵の具、筆が散らばり、その真ん中に寝そべる私の幼なじみがいた。
「瞬(マドカ)ぁ」
と、返事がないとわかっているけど、声をかけた。
彼の名前は、久野瞬。
しゅん、じゃないよ。
かける、じゃないよ。
まどか、だからね。
そこ大事。
間違えたら怒るからね、この人。
私は瞬にゆっくり近づいていく。瞬は目を閉じて気持ち良さそうに眠っている。
眠っているときは可愛いんだけどなぁ、なんて考える。
様々な色の絵の具が、顔や、カサカサの手についていた。瞬がキャンパスになったみたい、と私は思う。
爪に間にも絵の具がつまっている。ささくれもひどい。
男子って、こういうところガサツ。
瞬は特に。
今度ハンドクリームあげようかな。