すきなひと
私はそんな瞬の顔を、膝に手をついて覗き込む。
これは、私が瞬を起こすときのくせらしい。
瞬に言われるまで気が付かなかった。
「まーどーかちゃーん」
「……ちゃん付けすんな」
うっわ。
寝起き最悪です、彼。
瞬は、閉じてた目をほんの少し開けて、私を捉える。睨まれたような感じだ。
私はその姿がおかしくて、思わずふっと微笑んだ。
瞬は、女の子みたいな名前が恥ずかしいらしい。ちゃん付けすると、結構怒られる。
そんなことを言ったら私も満、なんて決して女の子っぽいとはいえない。なんなら交換して欲しい位だ。
「終わった?」
たてかけられたキャンバスをちらりと見て、私が尋ねると、瞬もキャンバスをちらりと見た。
彼はまだ床に寝転がったままなので、だいぶ上目遣いになっている。
「……あとひまわりの色塗って、仕上げするだけ」
「完成してきたねー」
瞬は小学生の時から絵を描き続けている。世間では『天才少年』と呼ばれ、瞬が書いた絵には高値がつく。
ニュースや雑誌にも載っちゃう。
色んなところに瞬の絵は飛びまわる。
いわゆる有名人なのだ。
この美術準備室だって、美術部の顧問が瞬の大ファンで、特別に1人だけ使わせてもらっているのだ。