冷酷王太子はじゃじゃ馬な花嫁を手なずけたい
それは、戻ってきてもらっては困るからだろう。


「お母さま、ご心配はいりません。お父さま、お母さまをお願いします」


国王のことを『お父さま』と呼んだのは初めてだった。
それはもしかしてもう二度と会えないかもしれないと覚悟していたからだ。

最後くらいは父親として送り出してほしかった。


「わかっているよ、リリアーヌ。シャルヴェ王太子に、誠心誠意お仕えしなさい」

「心得ておりますわ」


私は精一杯の虚勢を張った。

覚悟を決めたはずなのに、母の泣き顔を見てしまうと弱い。
私までもらい泣きしそうになり、必死にこらえた。


いつもの汚れた身なりとは違い、今日は新しいドレスを着せてもらった。

上質なビロードで作られたえんじ色のドレスは、金糸で美しい刺繍が施されている。
そして、地まで届く長さでパニエまでついており歩きにくいのひと言。
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