一輪の花を君に。
「西条先生、美空ちゃんちょっとお借りしてもよろしいですか?」



柏木先生は、西条先生に聞いてから私と千華ちゃんを車に乗せた。




それから車で10分、千鶴先生のいる畑へ着いた。





「千鶴先生!」




千華ちゃんは、走って千鶴先生の元へ向かった。





「千華、どうした?」




「チューリップのプランター、美空ちゃんと持ってきたの!」






「美空と?」




「こんにちは。」





「美空。柏木先生も一緒だったんですね。」





「千鶴先生、プランターはどこに置けばいいですか?」




「そうね…。ビニールハウスの1番日当たりがいいところにしましょう。」





「千鶴先生、そこに置いておけば、千華のチューリップ春には咲く?」





「ええ、大丈夫よ。千華、チューリップは寒さに強いの。」




「美空ちゃんみたいだね。」




「えっ?」




「千華ね、美空ちゃんの名前好きなの。美空ちゃんの名前の由来ちゃんと知ってる?」




えっ?




どういうこと?




「美空ちゃん、寒い冬に生まれたけど、青い大きな美しい空のように生きていってほしい。厳しい寒さにも負けずに、強く育ってほしい。そうでしょ?千鶴先生。」





美しい空のように、生きてほしい。





この言葉は、お母さんからよく言われてたから知っていた。




だけど、私の名前にそこまでの意味があったことは、知らなかった。




「どうでもいいよ。名前なんて、どうだっていい。」





由来なんて、どうでもいい。




親の思いがこめられて私の名前がついたんだろうけど、私を捨てた親がつけた名前なんて、ちゃんとした由来なんて知りたくもない。




「失礼します…。」






こんな弱い自分が嫌になる。




親に関することとか、過去に踏み込まれることで、こんなにも気持ちが揺らぐなんて。




「美空。」




「何ですか?」




私は、千鶴先生に掴まれた手首を振り払った。




「千華の、名前の由来は知っている?」





「知りません。」





「千本の中で、1番綺麗な花を咲かせてほしい。華のある人生を、千華にたくしたの。」






「それで?」





「そんな名前をつけておきながら、千華のお父さんの会社が倒産して、お父さんは仕事を新しく見つけているけど、お父さんのお金目当てだったお母さんは、そんな名前をつけておきながら、千華をここに預けて家をでたらしいわ。もちろん行方は分からない。」






「…何が言いたいんですか?」






「名前なんて、最初は親からもらう。でも、由来なんて親の願いでしかない。親のエゴよ。そんなことよりも、自分の人生は本人が切り開いて行くものよ。」





「美空ちゃん。千華は、美空ちゃんみたいな女の子になりたい。千華は、華のある人生なんかより、美空ちゃんみたいに優しく美人さんになりたい。地道にコツコツ、頑張る。」





「千華ちゃん。」





千華ちゃんに、こんなに慕われていたなんて全然気づかなかった。




下の子のお世話は、好きだけどここまでちゃんと見ていなかったな。





名前の由来なんて、どうでもいいか。





たしかに、そうなのかもしれない。





親がつける名前なんて、親のエゴでしかない。
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