一輪の花を君に。
「美空ちゃん、帰るよ?」



柏木先生のあとを追い、車に乗って施設へ戻った。



「千華、明日からお花の様子を見に行く時は、必ず美空ちゃんに一言声をかけて行ってね。」




「えっ?私にですか?」




「えぇ、美空ちゃんと一緒なら、きっと素敵な花が咲くの思うの。」




「千華も、美空ちゃんと行く!」




「千華ちゃん…。分かりました。」




「ありがとう。」




「千華ちゃん、部屋に戻るね。」




私は、千華ちゃんの頭を撫でてから自分の部屋へと向かった。




部屋に入ると、香音と中森先生が楽しそうに話していた。




何でまだいるのよ。




いや、それより。




どうして部屋にいるの?





「あ、美空。おかえり。」




「おかえりって…。どうして先生がいるの?」




「どうしてって、美空の情報収集。」




「意味分かんない。何で勝手に!」





「ほら、美空。そんなに怒ると発作が起きるよ?」




香音まで、普通にこの人がここにいること受け入れてる。




たしかに、この人はこれからも関わっていく。




これからも、私を支えてくれる。




それは、畑へ行く前に先生の言葉からちゃんと伝わった。




でも、やっぱり部屋に入ることまで、私は先生に対して、完全に安心しきっているわけでもない。





「中森先生は、美空のことを知りたいんじゃないのかな。さっきも、会議室で話してた時に、美空が辛くないように、通学方法を考えたり、通院のことも考えてくれたりしてたんだよ。」





「そうなんですか?」





「少しでも、今は安静にしていた方がいいから。喘息の症状には波があるって言っただろ?それで、すぐに俺も行けるようにって考えたんだ。皆が決めた家は、ベストだと思うよ。」




「そう…。」





やばい…。




咳が出そう…。





だけど、ここではダメだよね。




絶対、大ごとになっちゃう。




「香音、ちょっと…中庭行ってくる。」





「えっ?また?」




「うん…。」




「ちょっと待て。」



扉を開けようとした時、私は中森先生に止められ、先生の元へ引っ張られた。






「何?」




「何?じゃないだろ?全く、どうして症状を隠すんだよ。」





「関係ない。」





「関係なくない。吸入器は?」




私は、吸入器を取り自分で吸おうと思っても、手が震えてうまく吸えなかった。





「無理するな。ゆっくりでいいから、深呼吸してみよう。」





中森先生の、背中をさする手が優しくて温かかった。






しばらく、吸入してから咳が収まった頃に、私は気付いたら、中森先生の白衣を掴んでいた。





喘息で、呼吸困難になるといつもいつか死ぬんじゃないのかっていう恐怖感に襲われる。




発作が起きる度、呼吸困難になると七瀬先生には隠して平気なふりをしていた。





だけど本当は怖かった。





「美空?」





「…先生。」





自分でも、呼吸の音がおかしいことが分かる。





咳が収まっても、呼吸がうまく吸えない。






私は、このままこの恐怖に怯えながら生きていかないといけないのかな?





昔なら、このまま死んでもいいって思っていた。





だけど、生きたいって思うようになってからはこの苦しみが、大きくなって不安も恐怖も同じくらいに大きくなっていく。





そう考えると、怖い。




先生に、どうにかしてほしい。





そう思いをこめて、私は先生の白衣を掴んだまま、離れることができなかった。
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