柏木達也の憂い

社内で俺がコンペに応募したことを知っているのは、このコンペを薦めてくれた部長だけだった。

「柏木。お前、そろそろ力試ししてみたら?」

ある日、呼び出された会議室で差し出された1枚のパンフレットは建築家の登竜門と言われているコンペの案内資料だった。

実はこの部長も、受賞者の1人。だけど過去の受賞者のほとんどは独立して事務所を構えているような人たちで。社内では部長推薦がないと応募できない仕組みになってるし、そもそも応募することすら躊躇してしまう、そんなコンペだった。

だから、すぐに反応することができなかった。

部長がどういう意図で、勧めてくれているのか図りかねたからだ。

「あはは、そう構えるなよ。ちょっと早いかもだけど、お前ならいいセンいくんじゃないかって。俺も5年目だったし」

そう言って朗らかに笑う部長に他意はなさそうだ。

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