柏木達也の憂い

最後は絞り出すような声で、そう告げる美智子さんは泣きそうな顔をしてるけど、でも涙は流れてなくって。こういう時でも、この人は涙は見せないんだ、となぜか冷静にそんなことを考えてしまっていた。

「自尊心、って何?美智子さんにとって、俺はそんな意味しかもたないの?」

「そんなって・・・。私にとっては大事なことなの!仕事もそこそこ器用にはこなせるけど突き抜けたものがいない、そんな凡人の気持ちなんて、あなたにはわからないのよ!」

美智子さんが激高すればするほど、反対に俺の頭は冷静になっていっていた。

いつも穏やかでクールな美智子さんが、こんな思いを秘めていたなんて全く気付かなかった。俺はこの人の何を見ていたんだろう、と。

「いつも美智子さんの背中を追いかけている俺じゃないと意味がないってこと?美智子さんの隣に堂々と立ちたいと思う俺はいらないってこと?」

「隣ってなによ。私なんかよりも、全然前にいるじゃない。建築界の若手ホープ、柏木達也なんて望んでない。もう、本当にそういうところがたまんない」


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