エリート上司の甘い誘惑
「まず目ぼしいとこ二、三軒決めて、行ってみましょうか」
「……」
「どこがいい? ここなんかお酒の種類も豊富そうですよ」
もぐもぐもぐ、とランチの南蛮漬けを口に運ぶ私の横で、東屋くんはまるでデートの行き先を決めるかのように嬉しそうだ。
だけど私があまりに反応しないので、漸く諦めたのか一度口を閉ざす。
代わりに聞こえてきたのは、まず小さなため息だった。
「…………もうそろそろ警戒解いてくださいよ、さよさん」
「や、しても仕方ないよね?」
「そうですけど、殴られて目は覚めたので」
「その割にずるい。幹事になるように仕向けたりして」
「目は覚めたけど、諦めるなんて言ってませんからね」
ぐ、と喉につかえそうになって、辛うじて堪える。
横目で彼を見ると、頬杖をつき微笑んで私の顔を覗き込んでいた。
てっきり、神妙にしてるかと思いきや。
生意気だ、相変わらず。
「でも、もうあんな強引なことはしないので」
「……ほんとに?」
「誓って」
「じゃあ、行ってもいいけどお酒は飲まないよ」
「いいですよ、じゃあ俺も飲みません。まあ俺は……」
と、一度含みを持たせるように、彼は一拍ほどの間を置いた。
私は口の中のものを咀嚼して、首を傾げる。
「酒、関係ないですけどね。酔いに任せて言ったわけじゃないですから」
「そ……、そん、なこと、言われても」
当然、彼の言葉が示しているのは、あの日の告白のことだろう。
わかりやすいくらいに狼狽え、目を泳がせる私の口元に、不意に東屋くんの手が伸びて来る。
慌てて身体を後ろに反らせた。
「ついてますよ、口の端」
「え、あ」