エリート上司の甘い誘惑

店から駅までの道すがら。
平日ということもあり、飲みに出る人も少ないのだろう、繁華街といえども閑散としていた。



「無事お店も決まったし、ちょっとほっとしたね」

「ほっとしましたけど。さよさんと食事に行く口実をまた見つけなきゃ」



ぶつぶつと、企みを明け透けに声に出す。


まあ、正直なところ。
嫌なことしないなら、別に食事くらいいいと思う、気持ちはある。


東屋くんと話すのも食事するのも、楽しい。
ぽろぽろと口説き文句のようなことは言うけれど、強引なことはしないと約束してくれたし、ちゃんと守ってくれている。


あの時だって本当は、もっと強引に力で訴えようとすればできたはずだと思う。


ただ、今となってはもう。
東屋くんの気持ちを知ったのに、『食事くらい』と言葉にしてしまうことは躊躇われた。


なんとなく言葉が出ないまま、人もまばらな繁華街を歩いて、最初に待ち合わせた時計台に着く。


その時、隣を歩いていた東屋くんと、手の甲同士が触れ合った。


あ……、と気付いて、ほんの少し遠ざけようとした。
その指の先を、絡めて握られる。


その小さな接触だけで、急に私と彼を囲う空気が変わった気がした。

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