エリート上司の甘い誘惑
「東屋くん、手……」
ほんのわずかな、指先だけの触れ方。
ただ手を繋ぐよりも、ずっと胸に響く。
気持ちが流れ込むような気さえ、してくる。
「今日は」
「えっ?」
「家まで送りたい」
甘えるような声で、私を甘やかすことを言う。
進行方向を見ていた目が、そっと私の方を見た。
背の高い、彼の顔が外灯の灯りと重なって、きらきらと眩しく見える。
どきどきして落ち着かなくて、指を離そうとしたけれど離れてくれなかった。
「心配だから送らせて? ちゃんと」
「で、でも」
「あいつ、家まで押しかけてきたりしない?」
そう言われて、一瞬丸め込まれそうになる。
今まではなかったけれど、そういう日があってもおかしくはない。
鍵を渡していなかったことだけは救いだけれど。
出来れば園田が、最低限の常識くらいは弁えていることを祈るばかりだ。
「そんなん、今日に限らずいつだってそうだし。そんなこと言ってたら生活できないよ」
「さよさん」
「職場でいつも、気にかけてくれてるだけで、充分」
この時、もっと東屋くんの口ぶりが友人や同僚を感じさせるものであったなら私はすんなり受け入れたかもしれない。
じゃあ今日は甘えようかなって言えたかもしれない。
だけど、そうじゃないと彼の目がそう語っている。
今日も明日も明後日も、傍にいたいと言っている。
「それじゃ、足りないの、俺が」
きゅ、と絡まる指が強くなる。
「おねがいだから。俺に、守らせて」
指先が、小さな力でそれでも力強い意思で、離さないと言っている。
くら、と揺れた。
心が揺らいだ。