エリート上司の甘い誘惑

コーヒーを昼休憩から戻っているメンバーに配って、最後に部長のデスクに近づく。



「部長、ここに置いていいですか?」

「ああ、ありがとう」



デスクの邪魔にならない辺りを選んで、そっとカップを置く。
部長は既に、午後からの仕事の整理を始めていた。


十二月は、年末年始に向けて仕事が増える。
部長に限らず私も、さっきは呑気にしていた東屋くんも仕事中は忙しそうで外回りに出ていることが多かった。


毎年、いつものこと。
だけど、ほんのちょっとだけ違うことがある。


部長とは、あの夜の電話をきっかけに時折電話で話すようになった。
毎日では、ないけれど。


急ぎでない業務連絡を織り混ぜて、他愛のないことをほんの数分。


なんで、とか何か用が、とかは怖くて恥ずかしくて、聞けない。


聞いてしまってかかってくることがなくなったらと思うと怖いし、緊急ではないその電話がかかってくることを待ってしまっている自分が恥ずかしい。

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