エリート上司の甘い誘惑
「西原」
「部長? なんで……」
「ちょうど家に着いたところで、まだ車の中に居た。家も近いしな」
車から降りて来たのは、確かに部長だった。
仕事のスーツ姿のままで、言葉の通り帰ってすぐだったのだろうけど、聞きたいのはそういうことじゃなくて。
どうして、来てくれたんだろうってこと、だ。
目の前に立つ部長の口元から、白い息が上る。
それを呆然と見上げていると、哀しいわけじゃないのに泣きたい衝動に駆られた。
……ちょっと、怖かった。
こんな風に助けてくれるなんて思っていなかったけれど、何も言わずに来てくれたことが嬉しくて、言葉も出ない。
よほど心許ない顔をしたのか、部長が私の頭に手を乗せる。
もう大丈夫だ、と言葉でなく伝えられた気がした。
「冷えてるな」
私の髪を撫でる手が、ゆっくりと後頭部に回る。
視線を絡ませながら引き寄せられるのを感じても、少しも抵抗しようなんて頭に浮かばなかった。