エリート上司の甘い誘惑

反応を確かめつつ私の頭を抱き寄せる片腕に、確かな安心感を得る。
途端、ほうっと力が抜けて、すぐに手がカタカタと震えだした。


確かに、身体は冷え切っていたらしい。


……甘えていいのかな?
わからない。
けど今は……もう少し。


すり、とスーツの胸元にすり寄れば、もう片方の腕も私の背中に回り両腕でしっかりと、苦しいくらいに強く抱きしめられた。


暖かい。
布越しに伝わる部長の体温は、心の奥まで溶かしてしまうような温もりだった。



「……部長、」

「ん?」

「ありがとうございます……」



ぎゅ、と抱きしめられるままに身体をゆだねてそう言うと、ふ、と部長が笑った気配がした。



「礼を言われるほどのことじゃないが、西原」

「はい?」

「そろそろ車に乗ろうか。……お前が気にならないなら、こうしててもいいんだけどな」



どういう意味だろう、と考えてはたと思い出す。
そうだ、ここは駅前で。
敢えて、人の多い場所にいたのだった。


ばっ、と慌てて顔を上げて周囲を見渡すと、ちらちらと視線を飛ばしながら、たくさんの人が通り過ぎていく。
それだけじゃなく、停車中のバスの乗客までアカラサマに私達を見ていた。



「悪目立ちしてるな。ほら、早く」

「は、はいっ、すみませんっ!」



ひぃ!
恥ずかしい!


部長が助手席の扉を開けてくれて、私なんかが助手席に座っていいのかとか悩む余裕もなく、車の中に逃げ込んだ。
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