エリート上司の甘い誘惑
こんこん、と鍵の辺りでノックがあった。
鍵をかけろ、という意味だと慌てて手を伸ばして施錠すると。



「おやすみ」



扉の向こうで、声がした。
足音が遠ざかっていくのを聞きながら、私の頭の中では停止していた思考回路がゆっくりと機能し始める。



「…………キスされた?」



頬に触れた柔らかいもの。
同じ場所に指で触れようとして、躊躇った。


そんな顔、ってどんな顔?
誘ってる顔、って言われた。


俺以外に見せるなって、どういう意味?


触れた場所から再び熱が上昇し、私は玄関の土間で未だ蹲ったまま立てずに居た。



「えええええええええ?!」



部長、どういう意味ですか!
なんで頬にキスなんかするの?!


部長曰く逃げ遅れたらしい私は、しばらくそのまま骨抜きにされていて身動きが取れなかった。


おやすみ、と言われても。
とてもじゃないが、おやすみなんて出来そうになく結局朝方まで眠れなかったのである。






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