エリート上司の甘い誘惑
「え、なんで?」

「なんでって……」

「な、なんか話でもあんの?」


た、例えば。
腕時計の話とか?


訝しむ私を不審に思ったのか、彼もおかしな顔をする。


「いや、話っつうか」

「何」

「あ、仕事です。仕事のことでちょっと」

「ああ、なんだ」


なんだ。
それならそうと、はっきり言えばいいのに。


安堵して、止まっていた手をふたたび動かす。


「何、悩みごと?」

「そう! そんなようなもんです。男の営業同士って仲間であってもライバルじゃないすか。ちょっと溢しにくいとこもあって」

「なるほど」


彼も結構、負けん気が強いらしい。
まあ、営業なんてそうでなければ前に出ることは敵わないのかもしれない。


園田もそうだった。


「だったら今日、お昼一緒に行く?」

「いや、昼の時間だけじゃ短いかなー、て」

「そうなの? じゃあいつ?」

「今晩とか」

「いいけど」


今日は特に、約束も何もないし。
仕事も多分、問題なく終わる。


「でも私なんかでいいの? 何か相談するなら、部長とか課長とか」

「何言ってんですか。さよさんに聞いて欲しいんです。俺、さよさんの仕事尊敬してるから」

「え」

「皆言ってますよ。データ揃え頼んでも的確だし、資料の作成もすげえ見やすい。読む側のことちゃんと考えてんなって。ほんのちょっとの表や色分けとかも手、抜かないじゃないですか」


すごい、助かります。
と、人懐こい顔で微笑む。


ちょっと、きゅんと鳴った。
僅かなことだ、些細なことに目を配ってこだわった仕事でも、気付いてもらえることは少ない。


「あ、アリガト」


おのれ東屋。
こういうところほんと上手いなと思う。


褒め上手というか、褒めどころを探すのに長けているんだろう。
だから入社してきた頃から人気がうなぎ上りなのだ、女性社員から。

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