エリート上司の甘い誘惑
「ちょっ……さよさん泣かないでよ」



狼狽えた声が聞こえるが
誰が泣くか。


恥ずかしくて泣きそうではあるけども!



「泣かないわよ」

「ほら、言ったじゃないですか。俺、なんでも聞きますって! 愚痴でも憂さ晴らしでもいくらでも付き合いますって」



だから泣いてないって言ってるのに。


東屋くんは、相変わらず焦って私を励まそうとする。
っていうかさ、このところやけに懐いてくるなと思ったけれど、随分と気を遣われていたらしい。


何がリフレッシュだ。
生意気。



「ふ」

「え。あれ? 泣いてない」



恥ずかしいし情けないけども、目の前でおろおろしている彼の方がよっぽど情けない顔をしていたので、つい笑ってしまった。



「だから泣かないって。でも言ったからには憂さ晴らし付き合ってよ」

「付き合いますよどこまでも」

「いや居酒屋一軒だけでいいから」

「予防線張るの早!」



知られてしまったなら、今更どう取り繕っても仕方ない。
今日の園田には、心底呆れたし腸煮えくり返ったし、思う存分吐き出させてもらおう。


頭に浮かぶ個室のある居酒屋まで一直線に歩く。
後ろをすたすたと付いてくる足音は、ほんの少し私の気を楽にしてくれた。


園田のことで、誰かに話せるのはこれが初めてだったから。

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