エリート上司の甘い誘惑

彼が、何を考えてるのか。
気づかないようにしてた。


彼の言動の意味を考えると、確信を持ってしまいそうだったから。
今はまだ、自分の中の感情を整理するのに精いっぱいで、感じる好意を後輩だからという枠に収めてしまう方が気が楽だった。


「えっと……」


何か言わなければいけないと思うのに、言葉が見つからない。
そわそわと忙しなく視線を動かす私に、彼はまたむっと表情を歪ませた。


「さよさんの中で、俺ってほんとに弟みたいな後輩でしかないんだ」

「……ごめん」


観念して出た言葉は、きっと東屋くんの気持ちを尚更逆撫でする。
わかっていても、今の私にはそれしか言えない。


ふ、とため息を落とし、俯いた。


「ほんとに、ごめん。そんな風に意識したことなかったし」

「じゃあこれからして」

「え? いや、そんな。急に言われても」


私から見てやっぱり、弟と同い年ってどうしたって弟みたいなもんで。
どんだけデカくなっても子供だなあって、弟を見ていて思ってしまう、その感覚がどうしても東屋くんにも重なる。


無理だよ、と頭を振って、俯かせていた顔を上げた。
同時に彼が、一歩二歩と距離を縮める。


まだ拗ねた子供のような顔をしているのだろうと思っていたのに。
真正面で、私を見下ろすその表情は、目が離せなくなるくらい真剣だった。

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