エリート上司の甘い誘惑
「その時の私に言えるもんなら大声で言ってやりたい、そいつは二股男だぞーって」
「ははっ」
「そしたら絶対、すぐさまこっちから別れてやるのに。それが出来ないのがやるせないやら悔しいやらで、身の置き所がないの」
ぎゅ、と眉根を寄せる。
そこに、ふっと吐息がかかったと思ったら、柔らかい唇が眉間に触れた。
「ちょ、何して」
びっくりして額に手をやり隠しながら、彼を見上げる。
「さよさん、やっぱり可愛い」
「は?」
「踏ん張って立ってますー、って感じ」
驚く私のことなどお構いなしに会話を続ける彼は、今度は額を覆う私の手に口付けながら、さらりと言った。
「そういうとこが、すげー好き」
……好き。
と聞こえた。
好意は感じてはいたけれど、改めて言葉で声で、耳にしてしまうともう逃げ場はないのだと、追い詰められるような感覚だった。
同時に、泣きたくなるほど胸が高鳴る。
弱くて惨めなはずの私を、柔く温めるような言葉。
「な、何言って……」
心臓が高鳴る。
指先に吐息と柔らかいものが触れている。
彼が話すたびに擽られるようで、だけど手をどけてしまったらまた額ががら空きになる。
顔を上げると間近で東屋くんの視線に捕まりそうで、彼の喉元ばかりを見ていた。
「さよさんが追い詰められてんのって、ただの記憶だよ。そんなん、思い出でもなんでもない」
咽喉が動いて、真上からそんなきれいごとが聞こえる。