イケメン御曹司のとろける愛情
 どうしよう。こんなところで修羅場を繰り広げたら、私のピアニスト生命は終わったも同然だ。二度とアンバー・トーンでライブができない。アンバー・トーンだけでなく、ほかでも無理になる……。

 人前で修羅場になるのだけは避けたい。どうにかしてこの場から逃げ出したい。そう思うのに足に力が入らない。心臓は激しくバクバクと打っていて、額に嫌な汗が浮かぶ。

 円崎さんは優雅な足取りで歩いてきて、私の前に立った。胸元の大きく開いたシックな黒のワンピース姿に、こんなときでも同性の私でもドキッとさせられる。

 円崎さんが礼儀正しく笑みを浮かべた。

「突然申し訳ありません。私、インフィニティ・エアクラフト株式会社広報部の円崎可里奈と申します。そしてこちらが、プロジェクト推進部の水無川翔吾です」

 円崎さんが左側を示し、私はおそるおそるそちらを見た。翔吾さんは硬い表情で小さく会釈をした。

「インフィニティ・エアクラフト株式会社の水無川翔吾と申します」

 翔吾さんは他人行儀な口調で言って名刺を差し出した。彼に続いて円崎さんも名刺を差し出し、私は順番に受け取った。
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