フェアリーテイルを夢見てる
「ごく一部の人間しか知らない抜け道を通って目的地まで向かうなんて、まるで冒険活劇の主人公になった気分だ!」と。

それを聞いた人々は、『やはりこの人は秘密基地というものに憧れを抱いていたのだな』と自分の予想を確信に変えたのだとか。

それ以降、万作さんは暇を見つけてはその部屋に滞在し、時には何泊もしていたようです。

つくづくワンフロアを買い取っておいたのは大正解でした。

その頻度でホテルのスイートルームを利用していたとしたらすぐに買い取り価格を追い越してしまっていたでしょうし、しかもその部屋を自分の物にできる訳ではないのですから。

決して安くはないお値段でしたが、かけがえのない時間と、本人はもちろん家族や親族が後々まで運用できる「資産」を手に入れられたのですから、結果的に、万作さんはとてもお得なお買い物をしたという事です。

しかし、そこまでお気に入りだった、こだわりにこだわって設計して結構な私財を投じて手に入れた「秘密基地」でしたが、万作さん自身が利用できたのはわずか一年間だけでした。

ビルが完成した翌年、彼はこの世を去ってしまったのです。

死因は心不全。
何らかの理由で心臓が活動を停止したのです。

前日まで普通に元気に生活していたのに、翌朝、ご家族が住んでいる自宅の方のベッドの上で息絶えていたのでした。
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