フェアリーテイルを夢見てる
もうかなり遅い時間でしたので、巧さんの横で寝そべり、うつらうつらしながら話を聞いていた私でしたが、その声の響きに何やらただならぬものを感じ、すぐに眠気は吹き飛んで行きました。


「だけど自分だけは、その気持ちをないがしろにしたくなかった。たとえ告げる事は叶わなくても、一生成就する事はない想いでも、大切に慈しんであげたかった。だから君の名前を決める際、チャンスだと思ったんだ。「ケイ子」と付ければ、人前で堂々と、愛を込めて、その名を呼ぶ事ができる。『佐藤恵子』先生とはもう全く交流はないし、どこで何をしているかも分からないから僕が名前を拝借した事がバレる心配はないし、もし万が一本人の耳に入ったとしても、不快な思いをさせる事はないだろう。我ながら、誰も傷付かない、最善の嘘を考え付いたと思う」


顔を上げ、巧さんの横顔を見やると、あえて照明の光度を落とした薄明かりの部屋の中、彼は何とも表現しがたい奇妙な笑みを浮かべ、瞳をユラユラと揺らめかせていました。


「だから君の名は「ケイ子」になったんだよ。……実をいうと「ケイ子」自体も本当に好きな人の名前そのものではないんだけど。でも、真実を隠し通すにはそうしておくしかないんだ」


肝心な部分をぼかされている上に、それでなくてもまだあまり多くの言葉を知らなかった私は大いに混乱しましたが、ただ、巧さんの苦悩だけはヒシヒシと伝わって来ました。
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