クールな次期社長の甘い密約
運転席に居た倉田さんが、いつの間にか車外に出て助手席のドアを開けている。
「木村君は私の大切な部下ですからね、専務に無理を言って同乗させてもらったのですが、私の判断ミスだった様です」
口調は穏やかだったが、木村さんを見下ろす倉田さんの目はゾクリとするくらい怖かった。
「そんな……倉田課長、私は、ただ……」
「木村君の言動は見苦しくて自己中心的です。これでは庇い切れません。高速の途中で降ろされなかった事を専務に感謝しなさい」
あ……専務と倉田さん、二人が何も喋らなかったのは、怒っていたから?
あんなに強気だった木村さんが押し黙り、座席から微かに覗く肩が震えている。が、すぐに木村さんは倉田さんの体を突き飛ばし助手席を飛び出して行った。
「あっ、木村さん!」
慌てて声を掛けるが、その声を遮る様に倉田さんが助手席のドアを閉める。
今まで木村さんと同じ空間に居るのが堪らなく苦痛だったのに、彼女の小さくなる背中を眺めていると凄く切ない気持ちになる。だから、彼女の姿が駅の中に消えた後も目が離せないでいた。
「専務……木村さんをこんな所で降ろして本当に良かったのですか?」
振り返り聞くが、専務は苦笑いを浮かべ呆れた顔をしている。
「まぁ、アイツも言いたい事があるだろうと思って好きに言わせていたが、俺が否定しないのをいい事に好き勝手言いやがって……迷惑なヤツだ」
「じゃあ、木村さんが話していたのは……」
「そうだな、二割は事実で、八割は創作ってとこか……」