クールな次期社長の甘い密約

――翌日……午前八時四十分。


朝の掃除を終え、カウンター内に座るといつもと変わらぬ出勤風景が見える。でも、今朝はいつもと違っていた。


誰も私と専務がさっきまで一緒に居たなんて知らない……彼のワイシャツのボタンを止めたのも、ネクタイの歪みを直したのも、私だなんてここに居る人達は誰も知らない。


専務と秘密を共有してると思うだけで妙に興奮してドキドキする。


今朝は倉田さんが車で迎えに来てくれて私も同乗させてもらった。専務は会社の玄関まで乗っていけばいいと言ってくれたけど、さすがにそれはちょっと……


大勢の社員の前で黒塗りの車から降り、堂々と出社するなんて、そんな大それた事私には怖くて出来ない。なので、いつも利用している駅の手前で降ろしてもらった。


ヘタレの私に出来るのは、彼との秘密を増やし、ニヤニヤするくらいだ。


さっきまで専務が握ってくれていた手を見つめぼんやりしていると森山先輩がその手の上にカシス味の飴ちゃんを置き、気だるそうに言う。


「なぁにぃ~? 朝っぱらからボケ~っとしちゃって。なんかあったの?」

「あ、はい……昨日、専務が海外出張から帰って来て久しぶりに会ったんです」

「専務の帰国って昨日だったわね。なるほど、そういう事ね。で、昨夜は久しぶりだったから寝不足ってワケ?」


森山先輩が飴ちゃんを頬張り不機嫌そうに横目で睨んでくる。


「いえ、ぐっすり寝ました」

「はぁ? 久しぶりに会ったのに、専務って意外と淡泊なんだ……なんか想像と違う。ガッカリだわ」

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