クールな次期社長の甘い密約
ノンストップで上昇していくエレベーターの中、無言で前を見据えていると宮川先生の方から話し掛けてきた。
「君、同期入社の小沢 真代(おざわ まよ)を知っているかね?」
唐突に質問され、頭の中はパニック。必死で記憶を辿るが、その小沢真代という人物を全く思い出せない。
研修中は麗美さん以外の人と殆ど話さなかったしな……名前はなんとなく聞いた事ある様な気がするんだけど、誰だっけ?
「申し訳ありません……同期の新入社員は本社だけでも百人以上居ますので……」
「知らないと?」
「あ、はい、すみません」
深く頭を下げたのと同時にエレベーターの到着音が鳴り扉が開く。ここで会話は一旦途切れたが、常務室のドアの前に立った時、宮川先生が再び話し出す。
「小沢真代というのはね、私の姪っ子なんだよ。津島物産とは付き合いがあるから就職の面倒を見てもらったんだが、真代は受付を希望していると伝えたはずなのに、どういうワケか他の部署に配属されてね……
まぁ、真代より優秀な人が選ばれたのなら仕方ないと思っていたんだが、真代が納得いかないと泣き付いてきたんだよ。それで、君はどこの大学を出ているのかね?」
「あ……私は、城浦商科大学ですが……」
「城浦? 聞いた事のない大学だね?」
「地方の私立大学ですので……」
「地方の大学か……なるほど」
探る様な宮川先生の視線に耐え切れず目を逸らすと早くこの場を去りたくて常務室のドアをノックした。