クールな次期社長の甘い密約
仕事を終え、ロッカールームで着替えを済ませた私は地下駐車場に続く階段を一歩一歩、ゆっくり下りていく。
専務に確かめてみようと決心はしたものの、いざその時が近付いてくると恐怖と不安で胸が押し潰されそうになる。
出来れば専務と別れたくない。初めて私を女性として見てくれた人だもの。でも、出世の為に私に近付いたのなら、それも偽りという事になる。
遣る瀬無い思いで硝子扉を押し開けるとひんやりとした空気が流れ込んできて、一瞬にして淀んだ脳内がクリアになる。すると、この扉の先にある現実を冷静に受け入れる自信がなくなり足が竦む。
やっぱり怖い。専務に会うのが怖い……
本当に逃げ出そうと思った。けれど、駐車場から聞こえてきた声に今度は扉を閉めようとしていた手が止まる。
「お疲れ様です」
「あ……」
そこに居たのは、倉田さん一人。専務の姿はない。
「あの、専務は?」
「専務室を出たところで社長に呼ばれましてね……すみませんが、少しお待ち下さい」
倉田さんは後部座席のドアを開け、頷く様に小さく頭を下げる。
もう逃げられないと観念して素直に車に乗り込むと低いエンジンが響き、専務の好きな洋楽が車内に流れ始めた。そのスローバラードを聴きながら、運転席の倉田さんの表情を覗き見る。
この人は専務の事を全て把握している。だったら、あの事も知ってるはずだ。
専務に聞く前に倉田さんにそれとなく聞いてみようと思い、勇気を振り絞って彼に声を掛けた。
「……倉田さん、ちょっといいですか?」