クールな次期社長の甘い密約
「なんでしょう?」
振り返った倉田さんは、相変わらず無表情で冷静そのものだ。
「お聞きしたい事があります。専務は……本当に私の事を想ってくれているのでしょうか?」
彼にとってそれは予想外の質問だった様で、珍しく驚いた表情を見せる。でもすぐにいつもの鉄仮面みたいな顔に戻り、逆に聞き返された。
「どうしてそれを私に聞くのですか?」
「それは、その……倉田さんは、専務の気持ちを一番知っている人だから……です」
「確かに私は専務と行動を共にしていますが、専務の本心など分かりません。しかし、私が見る限り、専務は大沢さんに恋愛感情を持っていると思いますが?」
「本当に、そう思いますか?」と念を押してみたけど、淡々と答える倉田さんに動揺の色は見えない。それならと確信に迫る質問をしてみた。
「倉田さんは、国会議員の宮川先生を知っていますよね?」
「もちろん存じ上げております。津島物産は宮川先生に大変お世話になっていますからね」
「じゃあ、その宮川先生の姪が今年、津島物産に入社したのも知っていますね?」
少し間があり、倉田さんは「はい」と答えたが、その目は何かを警戒しているみたいに鋭く光っていた。
「その事が……何か?」
「その姪御さんは、総合受付を希望していた……」
「……その様ですね」
明らかに先の質問に答えた時と声のトーンが違う。冷静沈着な倉田さんが動揺しているって事は、もうこれ以上、質問する必要はないのかもしれない。でも、自分の気持ちにケジメを付ける為にあえて言う。
「念の為にお伝えしておきます。私は、宮川先生の姪ではありません」