クールな次期社長の甘い密約
――翌日……
昨夜は、あれから殆ど眠れなかった。
人生の一大イベント。専務との初体験を思い出し、興奮して眠れなかった……からではない。気になっていたのは倉田さんの事。
なんだか気まずくて、朝になったらどんな顔をして倉田さんと接すればいいんだろうとあれこれ考えていたのに、彼の方はいつも通り。特に変わったところはない。
もしかしたら酔っていて覚えてないのかも? もしそうならこんな有り難い事はない。お互いの為にもそうであって欲しいと切に願う。
そして専務はというと、超が付くほどご機嫌で、今までにも増して優しく私を気遣ってくれる。
「あ、そこの交差点で止めて下さい」
以前と同じ駅の手前で車を降ろしてもらおうと運転席の倉田さんに声を掛けると専務が「止まらなくていい」なんて言うから焦ってまう。
「専務、ダメです。一緒に出社したら私達の関係がバレてしまいます」
「どうしてそんなに心配するんだ? 俺には二人の関係を秘密にする理由が見当たらないんだが?」
「専務……」
「俺は全然構わない。茉耶ちんは何か困る事でもあるのか?」
ある! 大いにある。専務と付き合っている事が皆に知られたら、専務ファンの女性社員を全員敵にまわす事になる。想像しただけで恐ろしくて冷や汗が出る。
が、しかし、そんな事を考えている間に車はもう会社のビルの前に到着していて、倉田さんが後部座席のドアを開けていた。
うそ……マジ?
車から降りた専務が躊躇う私に向かって右手を差し出している。
「茉耶ちん、さぁ、降りて」