クールな次期社長の甘い密約

「えっ? 倉田さん、何も言わなかったの? 良かった~」


喜ぶ私とは対照的に森山先輩は顔を顰める。


「良かったじゃないでしょ? 全くあの事に触れないなんて、なんの為に谷本さんを呼んだのよ? これはきっと警告ね」


すると麗美さんも森山先輩と同様、腑に落ちないって顔をする。


「私もそんな気がします。何も言わないのがよけい不気味で……」

「大沢さんと違って谷本さんは直属の部下だし、秘書課で変な事言われたら倉田課長も困るからね。無言の圧力を掛けてきたってとこじゃない?」

「おぉーっ! そんな狙いがあったのですね? さすが森山先輩。鋭いですね」


感心して森山先輩を褒めちぎると先輩は得意げに親指を立て鼻を鳴らす。


でも、結果としては麗美さんがイヤな思いをしないで済んだのだから良かった。


「そういう事だから、暫くは大人しくしてた方がいいわね。じゃあ、谷本さんも無事だった事だし、帰ろうか?」


森山先輩の言葉に頷きカフェを出るとバス通勤の森山先輩はバス停へ。疲労困憊だと言う麗美さんは大通りでタクシーで拾う。そして私は電車の駅に向かって歩き出す。


だが、もう少しで駅に着くという時、後ろで短いクラクションが三回鳴り、何気なく振り返ると見覚えのある黒塗りの車が路肩に止まっていた。


「茉耶ちん、今帰り? 丁度良かった。乗って」


「ゲッ! せっ……専務」と叫んたが、私の視線は専務ではなく、運転席の倉田さんに向いていた。

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