クールな次期社長の甘い密約
「んっ? まぁ、色々とね」
「私に用事があって来たんじゃないの?」
その質問をしたとたん、今まで嬉しそうに笑っていた母親の表情が曇る。
「うん……でも、それはもういいのよ」
「何それ? わざわざ来たんだから言ってよ」
「もぉ~しつこいなぁ~。今日は六時間も電車に揺られて東京に出て来たから疲れてるのよ! サッパリしたいからお風呂にお湯入れてくれる?」
ったく、勝手なんだからぁ~。でもまぁ、だいたい想像はつく。どうせ、おばあちゃんと喧嘩でもして飛び出してきたんたろう。お母さんとおばあちゃんは普段は仲がいいけど、喧嘩すると激しいからな……
お疲れ気味の母親がお風呂に入ると私は母親の寝る場所を確保すべく、ローテーブルを部屋の隅っこに寄せていた。すると、そのローテーブルの上に置いてあった母親のスマホが鳴り出したんだ。
反射的に覗き込んだディスプレイに表示されていた名前は、"和弥"。
かずや? かずやってお父さんの名前だけど、漢字が間違ってる。お父さんは"和也"だし……あっ、そうか! お母さん機械音痴だから変換間違いしてそのままにしてるんだ。いい加減なところは昔から全然変わってないなぁ~。
スマホを持ってバスルームのドアの前に立ち、父親から電話だと伝えるとシャワーの音と共に面倒くさそうな声が聞こえてくる。
「お父さんから? 今、取り込み中だから茉耶出て~」
やっぱりね。気まずくて電話に出られないんだ。お父さんも大変だな。
父親に同情しつつ、その電話に出たんだけど――……