クールな次期社長の甘い密約

聞こえてきた声は、父親の声じゃなかった。おまけに、その正体不明の男性は強烈に怒ってる。


『姉さん、アンタ、何考えてんだ!』


えっ? 姉さん?


『今、仕事から帰って来て母さんに姉さんの事を聞いたよ。勝手にど田舎の男と結婚するって家を飛び出して二十年以上、なんの音沙汰もなく音信不通だったくせに、突然現れて金を貸せとは、どういう了見だよ!

それも、二千万って……ふざけてんじゃねぇぞ! 姉さんには、びた一文貸すつもりはない。アンタとは、とっくの昔に家族の縁を切ってるんだ。もうウチに来るな! 分かったな!』


あ……切れた。


母親のスマホを握り締め混乱した頭を整理する。


えっと……母親は父親との結婚を反対されて家出同然で父親の所に来たから、それ以来、東京の実家とは連絡を取ってないって言ってたな。


だから多分、電話の相手は母親の弟だ。確か母親には、五歳年下の弟が居たはず。でも、私は会った事もなければ話しをした事もない。というか、名前さえ知らなかった。


"和弥"とは父親ではなく、母親の弟の和弥さんの事だったんだ。でもまさか同じ名前だったなんて……


あ、でも、お金って何よ? 二千万とか言ってたよね。そんな大金を借りてどうするつもりだったの? まさか、なんかヤバい事になってるんじゃ……


母親に対する不信感が最高潮に達した時、バスルームの方から鼻歌が聞こえてきた。


実家に二千万もの大金を借金しようとしてた人が呑気に鼻唄なんか歌っちゃって……


「ちょっと、お母さん! 二千万って何よ?」

< 164 / 366 >

この作品をシェア

pagetop