クールな次期社長の甘い密約
母親の鼻唄がピタリと止まり、珍しく真顔になる。
「茉耶……二千万の事、どうして……」
「さっきの電話、"和弥"って名前だったからお父さんだと思ったけど、違ってた。和弥さんってお母さんの弟だよね? 彼が言ってた。二千万は貸せないって。ねぇ……そんな大金どうするつもりだったの?」
しかし母親は、苦虫を噛み潰した様な苦々しい顔をするだけで何も答えてくれない。母親のそんな様子を目の当たりにして、これは本当に大変な事なのではと背筋に冷たいモノが走る。
「ねぇ、何か困ってる事があるなら言って?」
縋る思いで母親の肩を揺すると黙り込んだ母親の濡れた髪から小さな滴が零れ落ち、私の手の甲の上で弾け散た。それを日焼けした母親の指がソッと拭い、観念した様に話し出す。
「ウチにはね、借金があるのよ……」
「うそだ……そんなはずない。だって、私が大学に入った時、余裕があるから奨学金は借りなくていいって言ってたじゃない」
「嘘じゃなの。でもね、借金があるのはウチだけじゃない。他の農家でも多かれ少なかれ借金はある。それが普通……なんだけどね」
母親は一つ大きなため息を付き、疎遠だった実家を頼る事になったワケを話してくれた。
――私が大学に入学した頃、ウチの仕事はそれなりに順調だった。それでも母親は奨学金を借りるつもりでいたらしい。でも、おばあちゃんが反対した。
「おばあちゃんはね、茉耶がこんな若い内から借金を背負うのは可愛そうだから、奨学金は借りるなって言ったのよ」