クールな次期社長の甘い密約
――津島物産、総合受付
森山先輩が朝から昨日の倉田さんの態度について熱く持論を展開しているが、隣の私は上の空。申し訳ないけど、それどころじゃなかった。
「何よ? さっきからボーッとしちゃって! 気に入らないわね」
「すみません、倉田さんの事より、大変な事があって……」
そんな事を言ったら、知りたがりの森山先輩が食い付いてくるって分かっていたのに、それさえも忘れてしまうくらい私の頭の中は混乱していた。
当然、先輩は何があったのか聞いてくる。その余りのしつこさに根負けして渋々実家の恥を晒す事になってしまった。
「三千万の借金? それを今月末までに返せですって?」
「はい……返済を迫られてるのは、信用金庫から借りてる二千万なんですけどね」
「で、お見合いはしないんでしょ?」
「母親は、専務と付き合っているんだからお見合いはしなくていいって言ってくれたんですが……」
「それでなんとかなるの?」
「さあ~……? その時は覚悟を決めるって言ってましたけど、それが何かは言ってくれませんでした」
大きく息を吐き虚ろな目で宙を見つめると森山先輩が「それ、ヤバいんじゃない?」って真顔で呟く。
「ヤバい?」
「そうよ! 絶対にヤバいわよ! アナタ、分かんないの?」
必死の形相で私の肩を揺する森山先輩。その切羽詰まった姿を見て、最悪の状況が頭に浮かんだ。
「……先輩、まさか……」
「うん、このままじゃ、大沢さんの家族も倉田課長の家族みたいになっちゃうかもしれないわよ! なんとかしないと……」