クールな次期社長の甘い密約

完全に取り乱しパニックになった私を森山先輩が一喝する。


「落ち着きなさい! 大沢さんがしっかりしないでどうするの? 私も何かいい方法がないか考えてみるから、アナタも考えるの!」


そして、森山先輩が考えたいい方法というのが……「専務に頼んでみたら?」だった。


専務だったらお金なんて腐るほど持っている。だから、二千万くらい楽勝だって言うけど、いくらなんでもそんなお願い出来ない。でも森山先輩は、私が困っているのを専務が見て見ぬふりするなんて有り得ないって語気を強める。


しかしその前に、実家のお父さんにも話しを聞いておいた方がいいと言うので、一階のトイレに行き、誰も居ないのを確認して電話を掛けた。


母親に全てを聞いたと伝えると、父親は沈んだ声で『そうか……』とだけ呟き、少しの沈黙の後『お母さんを責めないでやってくれ』って言ったんだ。


「うん」と短く返事を返すと父親が喧嘩の理由を話し出す。


『まぁな、こっちも悪かったんだ。お前を採用してくれた信用金庫に不義理してしまったんだから……』


えっ……母親が喧嘩した信用金庫って、私が就職するはずだったあの信用金庫だったの?


『向こうもウチとは長い付き合いだから気を使って茉耶を採用してくれたのに、それをギリギリになって一方的に断ったんだ。いい気はしなかったんだろう。

それに、理由を聞く支店長にお母さんが『こんな田舎の信用金庫より、もっといい所に就職が決まったから』なんて言ったから支店長がキレちまってな……』


うそ……私の就職が喧嘩の原因だったの?

< 171 / 366 >

この作品をシェア

pagetop