クールな次期社長の甘い密約
『信用金庫の方からは、喧嘩云々じゃなく、このままだと回収不能になる可能性があるからだって説明はあったが、お母さん責任感じたみたいで、絶縁状態の東京の実家に金を借りに行くって言い出したんだよ。でも、ダメだったみたいだな』
「う、うん……」
だからお母さんは、喧嘩の理由を聞いた時、何も言わなかったんだ……
『それで、お母さんから聞いたと思うが、その……見合いの件なんだが……無理にとは言わないが、もし茉耶に少しでもその気があるなら……』
父親はそこまで言って黙り込んでしまった。きっとそれは、父親の本意じゃなかったから。それでも言わなければならなかった父親の気持ちを考えると辛くて胸が張り裂けそうになる。
「……考えてみるよ」
そう答えるのが精一杯だった。
父親も母親も追い詰められている。このままじゃ、本当に……
森山先輩の言った言葉が頭の中でリフレインして体の震えが止まらない。
なんとか受付に戻ったが、森山先輩と目が合った瞬間、堪え切れずカウンターの中でうずくまって号泣してしまった。
私が決断すれば、家族は助かるんだ。家族を助けられるのは私しか居ない。
何度も心の中で呟き、嗚咽を繰り返していると倉田さんから私に内線が掛かってきた。
「……大沢さん、出れる? 後で掛け直すって言おうか?」
受話器の口を手を覆った森山先輩が気遣ってそう言ってくれたけど、私は首を振り、受話器に手を伸ばす。
食事会のお店を決める為、母親の好物を聞いてきた倉田さんに、私は覚悟を決め震える声で言ったんだ――
「食事会は、キャンセルして下さい」