クールな次期社長の甘い密約
倉田さんが後ろ手でドアを閉めいつもの調子で命令する。でも、今まで私の神経を逆撫でしてきたその物言いが、今日は不快に感じない。
「倉田さんに、私の気持ちは分かりませんよね」
それは裏を返せば、私も倉田さんの気持ちを全然分かってなかったって事……でも、今なら、今の私なら、彼の気持ちが痛いほど分かる。
「……かもしれませんね」
珍しく素直に認める倉田さんに少々焦ってしまった。だって、彼に反省してもらいたくて言ったワケじゃないもの。
「倉田さん、すみませんでした」
私は倉田さんを知らず知らずの内に傷付けていたかもしれない。
「ですから謝らなくていいと言ってるでしょ?」
「いえ、私、倉田さんに酷い事を言ってしまいました」
「それは、いつの話しですか? 常に酷い事を言われてますから見当もつきません」
えっ、私、そんな頻繁に酷い事言ってたの? 全然自覚なかった……
「えっと、亡くなられたご家族の事です。私、その事で倉田さんが津島物産を恨んで復讐するなんて馬鹿げてるって思ってました。
でも、ある日突然、納得いかない形で家族を失しなったら、どんなに辛くて悔しいか……その気持ちが実感出来たから……
自分も同じ立場になったらきっと、いえ、絶対に私も倉田さんと一緒の気持ちになると思います。だから、本当にすみませんでした」
深々と頭を下げると頭上から「妙な事をいいますねぇ」って声がする。
「アナタの話しを聞いていると、大沢さんが自分の家族を納得いかない形で失いそうだから私の気持ちが理解出来た。そう言っている様に聞こえるんですが……」