クールな次期社長の甘い密約
この人は、何を考えているんだろう……
呆気に取られていると倉田さんがジャケットのポケットからスマホを取り出し、どこかに電話を掛け始めた。
「あ、倉田です。私が今現在、保有している株を明日の朝一で全て売却して下さい」
株を売却って……倉田さん本気なの?
慌てて倉田さんのスマホを奪い取り、大きく首を振る。
「倉田さんダメです!」
でも、私がどんなに断っても彼は聞き入れてくれず、ウチの借金を払うと言って譲らない。そこから私達の長い押し問答が始まった。
「そんなの絶対にダメです。なんの関係もない倉田さんに迷惑掛けられません」
「関係?……ありますよ。大沢さんの家族の事じゃないですか」
「でも、私は倉田さんとは何も……ただ同じ会社に勤めているってだけです」
倉田さんに甘える事など出来ないと頑なに拒否し続けていたら、何を思ったか、彼が急にニッコリ笑う。
あ……倉田さんって、笑おうと思えば普通に笑えるんだ……
その笑顔はとても優しくて吸い込まれそうな素敵な笑顔だった。
「……それだけの理由ではいけませんか?」
「えっ?」
「誰も二千万の大金を差し上げるとは言ってません。貸すだけです。返せる範囲で返済して頂ければ結構ですから」
うそ……こんな神様みたいな人が居るなんて信じられない。しかもそれが、完全に悪魔寄りだと思っていた倉田さんだったから二度ビックリだ。