クールな次期社長の甘い密約
「倉田さんは津島物産の社員なら、誰にでもこうやってお金を貸すのですか?」
「冗談はやめて下さい。借金のある社員全員に金を貸していたら破産します」
優しい笑顔がまたいつもの呆れた笑いに変わる。でも、彼の口から出た言葉は嫌味ではなく、慈愛に満ちた一言だった。
「アナタだからですよ。大沢さんだから助けたいと思ったんです」
「えっ……」
倉田さんがらしくない事を言うから驚いて目が点になる。
「でも、私を助けたいと思っている人が、本気で私を殺そうとするでしょうか?」
つい本音がポロリと口をついて出てしまい、再び倉田さんの目が殺気立つ。
「では、もう一回、お花畑見ますか?」
「い、いえ、お花畑は、もう結構です」
「それなら早くお母様に連絡しなさい。そして、もう見合いする必要はなくなったと言うんです」
ジリジリと迫ってくる倉田さんに恐怖を感じ、慌てて制服のポケットからスマホを取り出す。
「し、します! 今すぐ母に電話します」
また首を絞められるんじゃないかとハラハラしながら母親に電話し、返済のめどがついた事を伝えるといつもの耳を劈く様な母親のデカい声が聞こえた。
『えぇっ! 二千万貸してくれるって人が居た? それ本当なの?』
「うん、だからもう心配しなくていいからね。お父さんにも教えてあげて」
『本当なのね……分かった。有難う。茉耶、本当に有難う。すぐお父さんに電話するね』
母親の喜ぶ声を聞き、これで最悪な事態にならずに済んだと安堵する。そして倉田さんに二千万は何があっても必ず返済すると約束した。