クールな次期社長の甘い密約
「私も今年で三十だし、もしかしたら受付から外されるかもってヒヤヒヤしてたのよ。そうしたら、一緒に受付してた後輩が突然デキちゃった結婚で寿退社しちゃってね、だから異動せずに済んだってワケ」
「それは良かったですね」
森山先輩が嬉しそうに話すものだからそう言ったのに「はぁ? 何がいいのよ?」とキレられた。
「後輩に先越されたのよ? ムカつくったらないわ!」
あ、そう言う事か……私、結婚なんて考えた事ないからピンとこなかった。女心は微妙で難しい。
「でも、私は後輩みたいに近場の男で妥協なんかしない。理想は高く玉の輿よ」
「玉の輿ですか?」
「そう、狙ってるのは、もちろん専務!」
これでもかと胸を張り、声高らかに宣言する森山先輩。綺麗な先輩だからこそ言える言葉だと納得して大きく頷く。
私なんかがそんな事言ったら笑われるのがオチだ。
「じゃあ、将来は社長夫人ですね」
「えっ、あ、うん……でもね、まだ専務が社長になるとは決まってないのよね~」
森山先輩の話しによると、津島物産は、今まで創業者の子息が代々社長職を継いできたが、今の社長が世襲は悪しき風習だと言い出し、今後は実力主義でいくと取締役会で発言したそうだ。
「まぁね、今時、世襲ってのもどうかって思うけど、そうなると専務の立場が怪しくなってくるじゃない? 色んな派閥があるから役員達は戦々恐々としてるわ」
「はぁ~派閥ですか? なんか企業ドラマみたいですね」