クールな次期社長の甘い密約
テレビドラマが何より好きな私は、何気に興味津々。自分がこの会社の一員だという事も忘れ、サスペンスなら、ここで社長の座を狙い殺人事件とか起こるんだろうな……なんて妄想全開だ。
そうこうしてると、記念すべき第一号の来客が現れ、再び緊張で固まる。が、接客をしたのは森山先輩。
先輩曰く――
「どうせ明日には他の部署に移るんだから、受付の仕事を覚える必要ないでしょ?」
「あ、そう……ですね」
本当に形ばかりの受付。ただ立ち上がって「いらっしゃいませ」と言うだけ。相変わらずお客様と目を合わす事も出来ない。そんな状態のまま時間が過ぎ、気付けばもうお昼になっていた。
「本当だったら交代でランチに行くんだけど、大沢さん一人じゃ心配だし、それをカウンターの上に立てといて」
森山先輩が指差したのは《恐れ入りますが、御用の方は備え付けの電話にて内線101番を押し、ご用件をお話し下さい》と書かれたプレート。
「内線は秘書課に繋がるようになってるの。あっちで対応してくれるから心配いらないわ。なんたって、受付と違ってあっちは大所帯だからね。じゃあ、ランチ行こうか?」
「あ……」
秘書課と言われて思い出した。そういえば、麗美さんとランチ行く約束してたんだ。でも、森山先輩のお誘いを断るワケにもいかないし……
どうしたものかと思案しながら立ち上がった時、役員専用のエレベーターから降りてきた背の高い男性が受付の前で立ち止まり、冷めた視線を私に向け、不機嫌な顔で呟く。
「大沢茉耶さん、専務からあなたをなんとかしろという指示がありました」