クールな次期社長の甘い密約
母親の勘違いに専務が動揺しているのがハッキリ分かり、もう生きた心地がしなかった。それに、倉田さんとの約束もあっさり破ってしまった……
チラリと倉田さんを見れば、眉間にシワを寄せ難しい顔をしている。きっと、母親がバラしてしまった事を怒っているんだ。
全身から妙な汗が吹き出し、もうどうしていいか分からない。なのに母親ときたら、ベリーレアの肉を頬張り満面の笑顔だ。
「貴志君のお陰で、また頑張れるわ! 有難う。貴志君!」
「え、えぇ……そうですね」
「あ~美味しかった! じゃあ私、ちょっとトイレ行ってくるから」
一人で喋りまくっていた母親が席を立ち、一瞬にして私達のテーブルが静まり返る。なんとも言えない空気が漂い、私と倉田さんはひたすら下を向いていた。
すると専務が静かにナフキンで口を拭い、低い声で呟く。
「どういう事が説明してくれ」
「あ、それは……」
慌てて口を開くと倉田さんが私の言葉を遮り立ち上がる。でも、専務には全てお見通しだった様で……
「借金を立て替えると言ったのは、倉田、お前だな?」
「……はい」
「随分、勝手なマネをしてくれるじゃないか?」
「申し訳ありません」
言い訳もせず謝る倉田さんの姿を見て、黙っていられなくなった。
「違うんです。倉田さんは悪くありません。倉田さんは私の家の借金の事を知って助けてくれたんです。私が母にちゃんと説明していなかったから専務に嫌な思いをさせてしまって……本当にすみません」