クールな次期社長の甘い密約
「茉耶、君は俺の彼女だよな? なのに、俺になんの相談もなく倉田を頼った。それはルール違反だろ?」
「あ……」
こんな怖い顔をした専務、初めて見た。
専務に睨み付けられ何も言えなくなった私を、今度は倉田さんが庇ってくれる。
「いえ、大沢さんを責めないで下さい。大沢さんから事情を聞いた時、専務に報告せず、自らの判断で借金の肩代わりを決めた私のミスです」
倉田さん……
しかし、私と倉田さんがお互いを庇えば庇うほど、専務の怒りは増していく。
「二人は、いつからそんなに仲良しになったんだ?」
「仲良しだなんて……私と倉田さんは、別に……」
「もういい。茉耶の家の借金は俺が払う。倉田は出しゃばるな。いいな」
「はい……」
倉田さんは冷静に頷いていたけど、私は動揺を隠し切れず、手に持つフォークが震えカタカタと皿を鳴らしていた。そこへ母親がトイレから戻ってきて私達の会話は一旦、途切れる。
その直後、専務がとても穏やかな笑顔で母親に話し掛けたんだ。
「お母さん、実は、大切なお話しがあるんですよ」
「あら、何かしら?」
「先ほどの二千万の事なんですが、それは結納金として受け取って頂けないでしょうか?」
……結納金?
私の手からフォークが滑り落ち、真っ白なテーブルクロスの上で鈍い音をたてた。
「ちょっ……貴志君、結納金って、まさか……」
「そうです。茉耶さんと結婚したいと思っています。ですから、二千万は結納金として納めて頂きたい」
「それはつまり、二千万は返さなくていいって事?」
「はい、お母さんが茉耶さんとの結婚を許して下さるなら」