クールな次期社長の甘い密約
「うそ……」
「嘘じゃありません。最近は結構、露骨にアピールしていたと思うんですが、気付きませんでしたか?」
えっ……そうなの?
頭の中が真っ白になり、完全に放心して天井を見上げていた。でも、彼の重みを感じている胸だけは、有り得ないくらい大きく高鳴っている。
「心臓の音……凄いですね」
「そ、それは、倉田さんが変な事言うから……」
「変な事とは失敬ですね」
「あ、すみません……」
強引に押し倒された私が、どうして謝らなくちゃいけないのかと疑問に思いつつ抵抗出来ずにいたら、倉田さんがゆっくり体を起こし、上目遣いで私を見た。
色素の薄い茶色い瞳……倉田さんって、とっても綺麗な目をしてる。
その澄んだ瞳に見惚れているといつもキッチリ固められているオールバックの前髪がハラリと落ち、それがやけに色っぽくて心がザワ付いた。
ヤダ……私には専務という婚約者が居るのに、他の男性に見惚れるなんてどうかしてる。
自分の心の乱れに戸惑い倉田さんから目を逸らそうとしたけど、倉田さんの手がそれを許さない。正面を向かされ、再び視線が絡み合う。
「悪い事はいいません。専務との婚約は解消しなさい」
「解消って……倉田さん、本気で言ってるの?」
「本気です。今ならまだ間に合います」
彼の焦る様な口ぶりが妙に引っ掛かり、その理由を聞こうとしたら、ローテブルの上に置いてあったスマホが鳴り出した。倉田さんは躊躇なくスマホを手に取り、ディスプレイを確認する。
「……専務からです」
それを聞いた私は焦った。だって、倉田さんが手にしていたのは、私のスマホだったから。