クールな次期社長の甘い密約
通話ボタンをタッチした倉田さんが、床に倒れたままになってる私の耳にスマホをソッとあてる。
ここで倉田さんが何か一言でも喋ったら専務に筒抜けだ。お願いだから何も喋らないで……
その思いを目で訴え、平静を装い電話に出ると専務の弾んだ声が聞こえてくる。
『今、実家に来てるんだ。親父に茉耶の事を話したら、なるべく早く会いたいって言ってたよ。それでだ……この週末、土曜日にでも挨拶に来れないか?』
「土曜日? 随分、急ですね……」
倉田さんはジッと私の顔を見つめ、スマホから漏れ聞こえてくる専務の声を聞いている様だった。
『あぁ、来週になると親父が忙しくなるみたいなんだよ。今週を逃すと暫く時間が取れない』
「そう……ですか」
『いいだろ?』
私を見下ろす倉田さんの目が険しくなり、断れと言っているみたいだった。でも、そんな事出来ない。だって、私が好きなのは専務だから……
倉田さん、ごめんなさい……
心の中で倉田さんに詫びると固く目を閉じ、ひと際大きな声で答えた。
「分かりました。土曜日にお伺いします」
通話が切れたのを確認して恐る恐る瞼を開ければ、落胆した表情の倉田さんが私を見つめている。
「残念です。アナタの為に忠告したのに……」
「えっ?」
さっきの疑問と同様、なんの為の忠告だったのかを聞こうとしたら、今度は彼のスマホが鳴った。
「専務から迎えに来いという電話です」
「あ、あの……倉田さん」
「……では、私はこれで失礼します」
立ち上がった倉田さんは私の呼び掛けを無視し、静かに玄関のドアを開け部屋を出て行った。