クールな次期社長の甘い密約

専務に怒鳴られシュンとした私を見て、小沢さんが長い黒髪をかき上げニヤリと笑う。


「こんな野蛮な人が津島物産の社員だなんて最悪だわ。専務もそう思いませんか?」


小沢さんの問い掛けに専務は小さく頷き、険しい表情のまま「そうだな」って答えたんだ。


そんな……


専務のその一言で、私の怒りが焦りに変わる。


専務は怒ってる。宮川先生の姪である小沢さんを叩いてしまった私に怒っているんだ……


大変な事をしてしまったと気付いたが、もうどうしようもない。廊下にペタリと座り、項垂れるしかなかった。


麗美さんが専務に駆け寄り事情を説明しようとしてくれたけど、彼は麗美さんの言葉に耳を貸そうとはせず、真っすぐ私を見据えたまま吐き捨てる様に言う。


「――分かってる」

「いいえ、専務は誤解してます。茉耶ちんは悪くないんです!」

「誤解などしていない」

「でしたら、茉耶ちんを責めないで下さい。茉耶ちんは私を庇ってくれただけです」


しかし、必死に訴える麗美さんを押し退け、専務が発した言葉は――「クビだな」だった。


クビ? 私、解雇されるの? という事は婚約も破棄?


縋る様に専務の顔を見上げたけど、彼の目は冷たく私を見下ろしているだけ。


そうだよね……社内で暴力を振るったんだ。弁解の余地はない。それも、宮川先生の姪を叩いてしまったんだもの。専務が許してくれるはずがないよね。


受け入れるしかない……そう思った。

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