クールな次期社長の甘い密約
泣いちゃいけないと自分に言い聞かせ、立ち上がって専務に向かって深く一礼した。
もうこれで、専務とは終わりなんだと悲壮感を漂わせ顔を上げたんだけど、私の目に映ったのは、意外にも専務の優しい笑顔だった。
えっ……どうして笑っているの?
専務は戸惑う私の頭をクシャリと撫で、振り返ると腕組をして様子を窺っていた小沢さんに向かって言う。
「君達の話し声は廊下まで筒抜けだったからな。だいたいの内容は承知している。君は、ここに居る谷本君を侮辱していたよな。それも、こんな大勢の社員が居る前で……」
専務が……私達の会話を聞いてた?
焦ったのは小沢さんだ。自分は事実を言ったまでだと慌てて弁解するが、専務の口調は更にキツくなる。
「誰にでも触れられたくない過去はある。それを暴露する様な卑劣な人間は我が社には要らない。よって、君を本日付で解雇する」
「解雇だなんて、酷い……どうして暴力を受けた私が解雇なんですか? 私を叩いた大沢さんも解雇にしてもらわないと納得出来ません!」
興奮して詰め寄る小沢さんに専務は意味深な笑みを浮かべサラッと言った。
「心配するな。大沢は解雇にしなくても、もうすぐ会社を辞めるよ」
専務の言葉の意味を理解出来ない小沢さんが怪訝な表情でその理由を聞いている。すると専務は私の肩を抱き、白い歯を見せ優しく笑った。
「大沢茉耶は、俺の妻になって寿退社するからな」
突然の結婚宣言に、小沢さんが絶句して固まり、小沢さんの後ろで遠巻きに私達を眺めていた社員からは驚きの声が上がる。