クールな次期社長の甘い密約

小沢さんのその一言で、幸せの絶頂から一気に奈落の底に突き落とされた。


小沢さんと常務がヒソヒソ話しをしながら去って行く後ろ姿は正に冷や汗モノ。


「専務……この事が宮川先生の耳に入ったら大変な事になるんじゃ……」


心配になり専務に小声で訊ねるが、彼は顔色一つ変えず、余裕の表情で笑っている。


「そんな事より、茉耶ちんにあんな激しい一面があったとは驚きだ。勇敢な茉耶ちんもいいな。惚れ直したよ」


呑気にそう言う専務を見ていると本当に大丈夫なのかと不安になる。


麗美さんを侮辱した小沢さんを引っ叩いた事は後悔してないけど、常務が社長にこの事を告げ口して専務が社長になれなかったら……私の責任だ。そうなれば、結婚どころじゃない。


だから、約束の土曜日までの二日間は、専務から電話があるたびドキッとして生きた心地がしなかった。




――そして、約束の土曜日。


お昼過ぎ、私のマンションに迎えに来てくれた専務と社長に会う為、彼の実家に向かう。


車の運転は当然、倉田さんだ。私のマンションで色々あって以来、彼と顔を合わせていなかったから、なんとなく気まずくて倉田さんと会話を交わす事はなかった。


というより、私が車に乗ってから喋っているのはテンションの高い専務だけ。私と倉田さんは一言も言葉を発してない。


程なく時代劇に出てくる様な白壁の塀が現れ、大きな門の前で車が止まる。車を降りた直後、倉田さんの方に視線を向けたけど、彼は私と目を合わせようとはしなかった。

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