クールな次期社長の甘い密約

私が倉田さんの忠告を無視したから怒ってるんだ……


倉田さんの事が気になり、チラチラ後ろを振り返りながら大きな門をくぐると専務が私の腰に手をまわし、優しく微笑む。


「緊張してるのか? 俺が付いているから心配いらないよ」


専務の言葉は心強かったけど、小沢さんの件が社長に知られていたらと思うと怖くて足が竦む。


「でも……宮川先生の姪を叩いてしまったし……その事が後々社長にバレたら、専務にも迷惑を掛けてしまうかもしれません」


消え入りそうな声で不安を口にするが、専務は私の心配を笑い飛ばし「まだ、そんな事言ってるのか?」と呆れ顔でズンズン歩いて行く。


「さあ、入って」


お屋敷という言葉がピッタリな大きな日本家屋の玄関は、まるで高級旅館の様な贅を尽くした空間が広がっていて、真正面には巨大な絵画が飾られている。おそらく著名な画家の作品なんだろう。


それ以外にも、高そうな調度品がさり気なく置かれていて、それらを見ただけでビビッてしまった。


そして、私達を出迎えてくれた着物姿のお手伝いさんが案内してくれたのは、だだっ広いお座敷。


ここも高級料亭みたい……


開いた障子の向こうに見える手入れが行き届いた日本庭園。青々と茂った木々に大きな池。時折聞こえる鹿威しの甲高い音と蝉の鳴き声――


ここが都会のど真ん中だという事を忘れてしまいそうになる。


その素晴らしい景色に見惚れていると静かに襖が開き、入社式に壇上で挨拶をしていた男性が入ってきた。


――社長だ……

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