クールな次期社長の甘い密約
一気に緊張が高まり、頭の中は真っ白。それでも挨拶しなくてはと思い慌てて立ち上がったが、口内はカラカラで上手く喋れず、言葉はカミカミだ。
何度も挨拶の練習をしたのに、出だしでつまずいてしまった……
自分のヘタレさを呪い軽く放心状態。そんな私を見て社長がクスリと笑う。
「君の事は貴志から聞いてますよ。面白くて勇ましいお嬢さんだとか……」
それって、まさか……小沢さんを引っ叩いた事を言ってるの?
隣りの専務を言葉もなく見つめるとニッコリ笑って頷いた。
「だから気にしないでいいって言ったろ?」
あれ? あれあれ? 社長にバレたら大問題になると思っていたのに、全然気にしてないみたい。
あんなに思い悩んだ事が取り越し苦労だったっと分かり、一気に体の力が抜ける。
「しかし、貴志が結婚相手に選んだ女性が大沢茉耶さんだったとはねぇ……驚いたよ」
「えっ……」
まるで私を以前から知っている様な社長の口ぶりに違和感を覚える。
社長が私を知ってるなんて有り得ない。だって出社時の社長はいつも社用車で地下駐車場に直行するから受付の前を通った事は一度もない。だから私が社長に会ったのは入社式以来、今日が二度目だ。
不思議に思っているとさっき私達をここに案内してくれたお手伝いさんがお茶を持って現れ、社長に耳打ちする。
「そうか、目を覚まされたか。では、早速で申し訳ないが、父に会ってもらえますかな?」
「お父様……ですか?」